当店店主のペットとの想い出
僕も中学生の頃に両親に駄々をこねて、柴犬の女の子を迎え入れた経験があります。
僕は2人兄弟で2つ上に姉がいるのですが、小学生の頃から「弟や妹がいたらいいのに…」と思っていました。 理由は特になく、単純に無いものねだりだったのかもしれません。
そんなところに生後2か月の小さな柴犬の女の子が来たので、自分に妹ができたようでメチャメチャ嬉しかったのをハッキリと覚えています。
両親が車で祖母の知り合いのところへ妹を迎えに行き、家に着いた時には少し車酔いしたのかヨロヨロと庭に出て戻していたことも覚えています。
その妹はかなりのツンデレでしたが、「デレ」のときは顔や口だけでなく鼻の穴や耳の穴までいつまでもペロペロと舐めてくれました。
「もう、うっとうしいなー」と言いながらも半分嬉しくもあり、気が済むまで舐めさせてあげていました。
体や肉球の匂いだけでなく、耳の穴や何とも言えない口の匂いも僕にとっては大好きな匂いでした。
そんなツンデレな妹との忘れられないエピソードがあります。
ある日いつもの大きな公園に散歩に行き、人があまり来ないところでリードを離して(今ではマナー違反ですが当時はなんとなく黙認されていた時代)ボールを投げて遊んでいたのですが、そのうち近くにいたハトを追いかけて遊び始めてしまいました。
そこへたまたま通りかかった親と散歩中の小さな女の子が「あー!ハトさん食べられちゃう。ハトさん可哀そう。」と言い出したので、そろそろリードをしなければと思い妹を何度も呼んだのですが、ハトを追いかけるのに夢中になっているため全く戻ってきません。
しびれを切らした僕はそこらへんに落ちていたそこそこの太さの枝をつかんで妹に向かって投げつけました。 俺は怒ってるぞ!早くコッチにこい!ということをアピールしたかったのですが、その枝は妹のお尻あたりに見事にヒットしてしまいました。
妹はハトを追いかけるのを止めたのですが、呼んでも相変わらずコッチには来てくれません。
そこで「もう帰るからな!」と妹を置き去りにして先に帰るフリをしました。
公園からの帰り道の最初の角を曲がり、そこでしばらく隠れていることにしました。
すぐに追いかけてくると思ったからです。
しかしなかなか追いかけてきません。
なんで?と思いながら曲がり角からこっそり公園の方を覗くと、居たはずの妹が居なくなっていました。
えっ?と、すぐ公園に戻って何度も呼びましたが、妹の姿はありません。
心配、不安、反省、後悔、でも俺は悪くないなど、複雑な気持ちで妹の名前を呼びながら捜し続けましたが全然姿が見当たりません。
泣きそうな思いであちこちを2時間ほど捜し続けていたとき、家から母親が自転車で公園に来て「○○ちゃん、さっきひとりで帰ってきたけど、あんた何やってるの?」と、僕を呼びに来ました。
なんと、ツンデレの妹は枝を投げつけられて頭にきたのか、僕を公園に置き去りにしていつもとは別ルートでひとりで家に帰っていたのです。
公園までの散歩コースには路線バスも頻繁に通るような交通量の多い道路や交差点もあるのですが、そんなところもひとりでスタスタ歩いて帰っていたのです。
15分ほどの道のりを…、僕を置いて…。
その歩いている姿を想像すると、ツンデレの妹らしいという感じです。
きっと一度も後ろを振り返っていないと思います。
家に戻ると妹は家の中のいつも通りの場所でいつものように寝そべっていました。
安堵の気持ちと、反省の気持ちと、若干の怒りで対面したのを覚えています。
いまとなっては懐かしい思い出です。
20歳の頃には実家を出て少し離れたところで一人暮らしを始めたため、ツンデレの妹にはたまにしか会えなくなってしまいましたが、それでも何かと理由を見つけては実家に寄ってツンデレの妹に会うのを楽しみにしていました。
20代の半ば、石材店に就職して数年経ったとき、仕事中に実家から携帯に電話がありました。
出ると母親が「いま仕事中?大丈夫?」と話し始め、その直後に堰を切ったように泣き始め「○○ちゃんが死んじゃった!」と、妹が亡くなったという知らせでした。
その日の夜、実家に帰りました。
車で向かったのですが、その道中は妹との12年半の色々な思い出が頭の中を巡り、涙が止まりませんでした。
実家に着き妹の亡骸と対面しました。
家の中のいつもの場所で、いつもと変わらない様子で横たわっていました。
父親の説明によると呼吸がヒックヒックと段々様子がおかしくなり、その後半日程度で逝ってしまったそうです。
もういい大人の男なんだから親の前では泣くまい、と思って実家に帰ったのですが、妹の亡骸を撫でているとポロポロと涙がこぼれるのを止められませんでした。
翌々日には火葬にして、とある動物霊園内の供養塔に合祀するということは決まっていたらしく両親から報告を受けたのですが、僕は仕事が休めないので両親と姉に一任しました。
火葬の当日、昼過ぎに姉から携帯に電話があり、泣きながら「いま煙突から煙が出てる」といままさに火葬されたという連絡がありました。
「苦しまずに逝けたのだろうか?」「我が家に来て幸せな生涯を送れたのだろうか?」涙は出ませんでしたが、遠くの空を見上げながら妹の短い生涯を色々考えたことを覚えています。
僕が実家を出てからは(出る前からも?)主に母親が妹の面倒を見ていたので、居なくなってしまったショックは家族の誰よりも大きかったと思います。
あんな悲しい思いはもう絶対にしたくないと言っており、実家では2度とペット飼うことはありません。
いまも実家には出窓のところに妹の写真といつもきれいな花が飾られています。